小国び塾活動日誌

藤浩志プロデュースによる「小国び塾」参加メンバーが、坂本善三美術館の収蔵品から発想して取り組む「アートなプロジェクト」の記録です。

『山笑のタコ2 ハルノシュ』

 『山童閑遊』とは本来,西日本に伝わる山の童(わらべ)のおばけがのんびりと静かに遊んでいる様子だと考えられる。一方,“山笑のタコ”は『山童閑遊』のスケッチに登場する山形をしたタコのような存在が,人々を笑顔にさせたいとの想いを込めて制作した。何れも,得体の知れないものが,心穏やかに笑みを浮かべているところに共通点があるといえるだろうか。

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 ところで,この“山笑のタコ”のモデルである坂本氏が描いたタコのようなスケッチは,少なくとも主役ではない。言い換えるなら,主役の側に偶然いたことから,写真の隅に移っていた第三者といった感じだ。

 この作品の制作途中に,カール・マイケル・フォン・ハウスヴォルフの『今なお生きていることの142の理由』というアーティストブックを思い出した。これは,たまたま写真の端に写っていた身近な人々をハウスヴォルフが142名クローズアップしたような趣がある。この作品としての本は,主役だけが大事なのではなく,全体が重要だと感じさせてくれる。

 誰もが目にするような代表作なら誰かの脚光を浴びて,リメイクされることもあるかもしれない(実際におばけ計画では,善三の代表的な作品から着手した)。だが,『山童閑遊』は善三作品のメジャー路線でない。描かれて70年近く経っている上に,挿絵ということからしても影は薄い。けれども,数多ある善三作品が生き続けるのは,目立たない作品のディテールがあるからだ。

 日頃脚光を浴びることが少ないタコのような存在が立体化され,善三さんは天国で驚きつつ喜んでくれているだろうか。

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