小国び塾活動日誌

藤浩志プロデュースによる「小国び塾」参加メンバーが、坂本善三美術館の収蔵品から発想して取り組む「アートなプロジェクト」の記録です。

言葉を、さがす

みなさんはじめまして。「小国び塾」に参加させていただいていますヤマシタと申します。
住まいはこの小国町にありますが、福岡市内や北九州方面、熊本市内で大学の非常勤講師をやっています。
専門は西洋哲学ですが、勤務先によっては論理学や芸術学を教えています。
このブログに一回も記事を書いていないのはお前だけだという近親者からのプレッシャーに押されるかたちでやっとパソコンのエディタを立ち上げることができました・・・。

 私のテーマを「坂本善三を読む」です。
絵画作品そのものと作家本人が雑誌・新聞に寄稿した文章やインタビューに残したことばとが互いに反響し合うような出来事、そしてそのような言葉の反響の中に観客(そしてそれは今回「読み手」あるいは「聴衆」でもある)が巻き込まれていくような経験というものは可能なのか?もし可能であるならば、それはどのようにして可能になるのか?

いま僕は、実際に展示する作品と並ぶべき「言葉」を作家が残したテキストから拾うという作業をしています。落ち葉拾いならぬ「言の葉拾い」です。坂本善三は寡黙なグレー、寡黙な黒といった言葉で表現される作家ですが、残されたテキストは思いのほか多いのです。

f:id:sakamotozenzo:20170908110621j:plain

芸術家の言葉といえば学生の頃、岩波文庫から出ている『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』を読んだ時にとても驚かされた記憶があります。

人類史上に残る天才レオナルド・ダ・ヴィンチが残した言葉であれば、それはそれはありがたい滋味溢れる言葉で埋め尽くされ、一読すればすなわちこの愚かな身の上もたちまちにして光明に包まれ、人としての段階を一つばかりか二つも三つも向上させられると思っていました。

・・・私が莫迦でした。

まさかの冒頭から罵倒の嵐。

私が学者でないから、ある威張り屋は私のことを文字も知らぬ人間だと断ずればそれだけで私をもっともらしく非難できるととお考えのようであることを私は十分承知している。馬鹿な連中だ!
(杉浦明平訳『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 上』岩波文庫、1954年、p.19) 

たとえ奴らのように、著作家たちを引用することができたところで、奴らの先生の先生たる 経験 を引用する方がはるかに偉大でありかつ読む価値も大きい。やっこさんたち、自分の苦労ではなく他人の苦労で膨れ上がり贅を尽くして飾りめかしている。・・・そしてやっこさんたちが創作者たる私を軽蔑するなら、創作者でなくて他人の作品のラッパ卒兼暗誦者に過ぎないやっこさんたちこそ、遥かに非難されて良さそうなものではないか。(同上p.20)

おお人間の愚劣さ!お前は一生涯自分と一緒に暮らしながら、しかもまだおまえの一番たくさん所有しているものを、つまりおまえの阿呆らしさを理解していないのを悟らないのか?そのくせおまえは数学を軽蔑することによって山のような詭弁家連中とともに、自分を他人をもごまかそうとしている。(同上p.23)

 

もちろん全部がこういう調子だというわけではなく、後半の文学・芸術論、科学論ではだいぶ冷静な筆致になっています。しかし、そこにおいても認識の「冷徹さ」が一貫して存在していることは否定できません。

この僕のレオナルド体験は、やはり大層堂々たる格好良い言葉が並んでいるのであろうと思って読んだ『ナポレオン言行録』がどれだけページをめくっても奥さんへのラブレターばかりで辟易したのに似ていながらまったく異なる衝撃で今日まで僕に影響を及ぼしています。

いま再びダ・ヴィンチの手記を読めば、当時の画家や彫刻家の社会的地位についての知識などを鑑みて理解しなけらばならないところもあるし、そもそも激しい口調は単なる無理解な世間への罵倒ではなく、自分自身への自戒も含めた人間存在そのものへ向けられたものであると理解しなければならないでしょう。

しかし、そこに常に伏流している、経験を重視すること、自然に学ぶこと、数学や科学的知識の重視は、はからずも坂本善三の創作活動のなかに見いだすことができます。坂本善三は自然の秩序や自然の移ろいにのっとった作品のことを考える、絵は科学だから自然の原理に従って書くべきだ、等の発言を多く残しており、また、何よりも(日本人が大好きであろう)「枯淡の境地」なるもので絵を描くことを自らに厳しく禁じています。

・・・こうした事柄も何か展示に活かせるのではないかと、ときおり窓から入ってくる小学校運動会の練習の音を背景に、日々キーボードをパチパチと叩いております。

 

文献研究が仕事なので、私にとっては本が仕事道具なのです。ところが先月諸事情により期間限定の引越しをしまして、いま仮住まいで暮らしています。そんなこんなで仕事道具の多くはいまだダンボールの中・・・。

f:id:sakamotozenzo:20170908110644j:plain

 はやく彼らの力を解放せねば・・・「南本棚⑥上段洋書」って、中におるのはけっきょく誰たちなんや!

f:id:sakamotozenzo:20170908111200j:plain 

ブログを書くにあたりどうしても参照したい本があったのですが、とうとう見つけることができませんでした 。

しかし「芸術関係」と書かれたいくつかのダンボールを発見!

f:id:sakamotozenzo:20170908111339j:plain

 なんで中身はウルトラセブンなんや!!