小国び塾活動日誌

藤浩志プロデュースによる「小国び塾」参加メンバーが、坂本善三美術館の収蔵品から発想して取り組む「アートなプロジェクト」の記録です。

鳥象君(とりぞうくん)のこと ハルノシュ

 坂本善三の作品に『象』(油彩・1981)と『鳥』(リトグラフ・1980)がある。何れも,短めの筆跡を幾つかの方向から素早く重ね合わせ,それを画面に並べた作品だ。これらの作品は何者かが動いた跡の残像を連想させる印象的なシリーズである。

 私はおばけ計画を始めて間もない時期,試作を三つ作った。その中の一つに,『象』(油彩・1981)を題材にしたおばけがあった。この『象』が鳥に見えたのをきっかけに,鳥のイメージを借りた善三作品のおばけを作ろうと考えたのだ。(そのときはまだ,『鳥』(リトグラフ・1980)が“とり”というタイトルの作品であることを知らなかった。)試作の段階では,『象』が“ぞう”とも読めることから“とり”と“ぞうさん”の組み合わせによるおばけを思いついた。そして,尾の部分などに鳥らしさを残すように意識しつつ,象のように鼻を長くした。また,表面の7割ぐらいに『象』(油彩・1981)を和紙に印刷したものを三角形にちぎって覆うようにして仕上げた。けれど残念ながら,その試作は解説がなければ,それが善三さんの『象』を元にした作品と分かり辛かった。

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 完成後,小国び塾で試作をメンバーに見て頂いたとき,『象』(油彩・1981)について,「この作品のタイトルは(ぞうさんの)“ぞう”と読めますので・・・」と説明すると,善三美術館の学芸員の方が「これは“しょう”と私たちは呼んでいます」と教えてくれた。おそらく『象』とは,“形象”のことであり,善三さん自身,動きのあるものが過ぎ去った形の痕跡のようなものを抽象的に示したかったのだろうと感じた。

 ところで,リリー・フランキーの漫画『おでんくん』にはお餅と象が組合わさった“もちぞうくん”が時折登場していた。“もちぞうくん”は他確か「もちぞう,もちぞう」と言いながら,チャーミングに動き回っていた。これにあやかり,2作目と3作目を制作するにあたって,“鳥”と“象”の組み合わせたこのおばけを“とりぞうくん”と命名した。今回は,試作に比べ,象らしさを更に強調するために,(はるのこうりん の助言により)耳をつけ,鼻に象牙色の蜜蝋を使い,足底を太く,丸くしてみた。

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更に善三さんのオリジナル作品のイメージを損なわないようにするために,和紙に印刷した『象』や『鳥』のイメージを体の部分にあまり加工を加えず使用した。“もちぞうくん”ほど,キュートではないが,善三作品を契機に不思議なおばけが誕生したと感じている。

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